研究トピック

プリンタブル微小光共振器(進行中)

微小光共振器を印刷技術でプリントする研究をしています。微小光共振器は、髪の毛の直径(数μm~数百μm程度)ほどの微小サイズで、マイクロディスクをはじめマイクロリングやマイクロトロイド(ドーナツ)などの円を基調とした様々な形状があります。特定の周波数において極めて高い光閉じ込め効果や高いQ値を示すため、光周波数コム、集積レーザー光源など広い分野で世界的に研究が盛んに行われています。特に、医療・バイオ分野において、この光微小共振器は原理的にはウイルス1個程度を検出する能力を有するといわれており、生体由来試料の超高感度センシングなど革新的な分析手法を創成する有望な次世代のプラットフォームです。

ポリマー、シリカ(ガラス)、シリコン系などの材料で実現されている光微小共振器の作製には、一般的にリソグラフィーやエッチングといった高度に最適化された半導体プロセスと同じ手法が用いられます。これは減法的アプローチ(材料から削り出す)で再現良く大量のデバイスの一括作製や大規模スケールの集積チップの作製ができる点で優れていますが、熱や酸などの処理が必要です。そのため、微小光共振器は半導体工場など高度な設備が整った施設で用意する必要があり、また、処理の負担から使える材料が制限されます。ゆえに現状の作製法のみでは、コスト・実用面を考慮して広く産業応用されるには多くのハードルがあります。

本研究トピックでは、マイクロディスク型の微小光共振器のための、全く新しい作製技術(インクジェット印刷法)に関する研究を行っています。インクジェット印刷法は、市販のインクジェットプリンターと同等の技術で微小光共振器を印刷する技術で、加法的アプローチ(材料を配置する)です。その作製プロセスはシンプルかつ容易であり、①クラッド層およびコアディスク層の印刷、②クラッド層のウェットエッチングのみです。加えて、常温・大気圧下で行う作製プロセスが可能で、オンデマンド・オンサイトな作製もできます。インクジェット印刷法で作製されたマイクロディスク光共振器レーザーは、WisperWhispering Gallery Mode(WGM)という特殊な伝搬モードを形成し、ディスク周囲に光を閉じ込めレーザー光を生成します。そして、そのレーザー光のスペクトルは等間隔の櫛状をしています。

これらの成果の顕著なのもには、基礎的な性能指標であるレーザー発振のしきい値において世界記録の値(従来の22%低いしきい値)の達成があります。本成果はNatureグループのScientific Reports誌にて発表され、「レーザーに関する研究で、きわめて示唆的かつ独創的で、将来性のある成果」であると認められ第40回レーザー学会奨励賞を受賞しました。加えて、国内の産業誌オプトロニクスや複数の新聞報道によって大きく注目されました。その後の発展的な研究についても顕著な業績を収めており、2020年にはインクジェット印刷法の高度化プロセスに関するアメリカ光学会(OSA)のApplied Optics誌に発表した論文がEditors' Pickに選ばれました。そして、最新の2021年のプリンタブル有機マイクロディスク光共振器レーザーのバイオセンシング応用に関するOSAのOptical Materials Express誌に発表した論文は、当学会の公式ニュースリリースともに公開され公式ウェブサイトのトップページを飾りました。これは、昨今の世界的な情勢に貢献が期待できる定量抗原抗体検査を、センサーとなるマイクロディスクの作製から検査まで常温で簡単に実施することへつながる基礎研究としてインパクトがあり、科学新聞、マイナビニュースYahoo!ニュースEurekAlert!DoveMedなど国内外の多くのメディアに取り上げられ注目されました。

現在、有機マイクロディスク光共振器を光渦の集積光源へと機能拡張した有機トポロジカル光共振器の開発を進めています。

色素循環型固体導波路レーザー(完了)

有機固体レーザーの短動作寿命問題を解決し得る全く新しいタイプの有機固体レーザーである色素循環型固体レーザーを開発しました。これは固体ポリマー媒質中をレーザー色素が拡散移動できる全く新しい概念の光機能媒質を用いて出力の自己修復を初めて確認した世界初のデバイスであり、有機蛍光分子を固体で利用する際の劣化問題を飛躍的に改善し、当該分野の長寿命化という最重要課題に一石を投じました。これらの成果は、Optics Express誌をはじめ多数の学術論文誌や国際会議で発表しました。本研究は、日本学術振興会の特別研究員DC2として遂行しました。

フェムト秒レーザー(完了)

Yb:YAGセラミックを利用したフェムト秒パルスレーザーを開発し、従来のよりもスケーリング効果の高い同材料による光源を世界で初めて得ました。フェムト秒レーザーは、天文学、周波数標準、超高速現象解明、通信等の基礎・応用物理、超微細加工などの産業、レーシックなどの医療と人類の生活水準向上に欠かせない重要な技術です。これを如実に示す最新ニュースとして、2018年のノーベル物理学賞がフェムト秒パルスレーザーの増幅などレーザー技術に関する研究成果に贈られたことは記憶に新しいです。本関連成果は、Optics Express誌をはじめ多くの学術論文誌、国際会議、招待講演にてこれらの成果を発表しました。さらに、国際的な産業誌「Laser Focus World」にも取り上げられ、2010年にはIEEE福岡支部学生研究奨励賞を受賞しました。本研究は、修士課程の研究テーマとして遂行しました。